レチノール(retinol)は、ビタミンAの一形態です。関連する成分をまとめた「レチノイド」の一つで、レチナールやレチノイン酸と同じ名前ではありません。まず名称の関係を整理し、肌での変換、化粧品研究の限界、日本での効能表示を分けて見ていきましょう。出典:2022年レビュー全文 ↗
レチノールはレチノイドの一つ。似た名前の成分を整理
レチノイドは総称、レチノールはその中の一つの成分です。 レチノイドには、天然に存在するものと合成された関連化合物が含まれます。名前が似ていても、すべてをレチノールと言い換えることはできません。出典:2022年レビュー全文 ↗
| 名称 | 名前の関係・位置づけ |
|---|---|
| レチノイド/retinoids | ビタミンAに関連する天然・合成化合物を含む総称 |
| レチノール/retinol | ビタミンAの一形態。レチノイドの一つ |
| レチナール/retinal | レチナールデヒド/retinaldehydeとも呼ばれる |
| レチノイン酸/retinoic acid | レチノールやレチナールとは区別される形 |
| トレチノイン/tretinoin | 全トランス型レチノイン酸。レチノイン酸全体の唯一の名前ではない |
| レチニルエステル/retinyl esters | エステル型の仲間。パルミチン酸レチノール/retinyl palmitateなどがある |
この表は名称の整理です。効果の強さや、製品を置き換えられる順番を示してはいません。出典:2022年レビュー全文 ↗
肌での変換と、製品の効果を示す根拠は分けて読む
レビューは、塗布後の変換を「レチニルエステル→レチノール→レチナールデヒド→レチノイン酸」と説明しています。ただし、この変換経路は、市販の化粧品どうしの効果を比較した結果ではありません。変換段階だけから、ある製品のほうが優れている、同じ効果があるとは判断できません。出典:2022年レビュー全文 ↗
塗るレチノールの研究について、2022年のレビューには、基剤と比べて評価項目に統計的に有意な改善を報告した研究と、肯定的な結果を確認しなかった研究の両方が紹介されています。基剤とは、評価したい成分を除いた、クリームなどの処方の土台です。基剤だけでも肌の評価が変わることがあるため、基剤との比較は、成分を加えたことによる違いを考えるために役立ちます。出典:2022年レビュー全文 ↗
一方、小規模な試験や基剤の対照群がない試験などもあり、研究結果の読み取りには限界があります。レビューは、研究で使われた濃度の幅や、資金提供を受けた研究の利益相反も解釈上の問題として挙げています。化粧品によく使われるレチノイドについて、適切に設計された臨床試験の根拠が十分ではないという評価であり、「すべての製品に効果がない」という結論ではありません。出典:2022年レビュー全文 ↗
成分名や濃度だけでは、完成した製品の効果は決まりません。 レチノールの安定性は光・酸素・熱などの影響を受け、化粧品中での安定性は処方ごとに評価する必要があります。成分の変換の説明と、実際の処方を人が使った試験は、別の情報として読むことが大切です。出典:2022年レビュー全文 ↗
ここで参照した論文は、既存研究を検討した2022年のレビューです。著者が新たに行った臨床試験ではなく、2026年までのすべての研究を網羅した評価としては扱いません。出典:2022年レビュー全文 ↗
成分名だけでは決まらない、日本の製品区分と効能表示
「レチノール配合」だけで、その製品にシワ改善の承認があるとはいえません。 医薬部外品の承認は品目ごとであり、シワに関する個別承認の効能も、その製品の承認範囲で読む必要があります。出典:PMDA ↗、厚生労働省の効能表示に関する通知 ↗
日本の化粧品・医薬部外品・医薬品は、単純に成分濃度の低い順、高い順に並ぶ区分ではありません。法律上は使用目的や作用に加え、指定・除外条件によって区別されます。
| 区分 | 区別する際の基本的な考え方 |
|---|---|
| 化粧品 | 身体を清潔にする、美化する、皮膚や毛髪を健やかに保つなどを目的とし、人体への作用が緩和なもの |
| 医薬部外品 | 法律で定められた目的や指定の対象に該当し、人体への作用が緩和なもの |
| 医薬品 | 疾病の診断・治療・予防など、法律で定められた目的に該当するもの。化粧品・医薬部外品などとの除外関係もある |
これは区分の概要で、個別製品の判定表ではありません。海外のレビューに出てくる「cosmeceuticals」という言葉も、日本の独立した法定区分として読み替えることはできません。出典:医薬品医療機器等法第2条 ↗、2022年レビュー全文 ↗
表示では、次の三つを分けると混同を減らせます。
- 成分名:何が配合されているか。
- 配合目的:その成分を、どのような目的で配合しているか。
- 製品の効能表示:その製品について、どの範囲・条件で表示されているか。
厚生労働省の通知では、化粧品の特定成分を強調して表示する場合、客観的に実証された、化粧品の効能や製剤技術に基づく配合目的の併記を求めています。すべての成分を同等に示す全成分表示は、この特記表示とは区別されています。強調された成分名を、そのまま製品の承認効能と受け取らないことがポイントです。出典:厚生労働省の特記表示に関する通知 ↗
化粧品で使われる「乾燥による小ジワを目立たなくする」という効能表示にも条件があります。指定ガイドラインに基づく試験、または同等以上の適切な試験で、効果が確認された製品に限られます。「乾燥による小ジワ」という対象を外し、すべてのシワを改善する意味に広げることはできません。医薬部外品などで個別承認された効能は、その承認範囲に従います。出典:厚生労働省の効能表示に関する通知 ↗
この記事では、特定のレチノール製品やトレチノイン製品の日本での承認状況までは確定していません。未確認であることを「未承認」という結論には置き換えません。
刺激は効果の目印にしない。注意事項と判断の限界
塗るレチノイドでは皮膚刺激が問題になることがあります。ただし、参照したレビューから、すべてのレチノール化粧品に共通する発生率や、個人に合うかどうかは判断できません。刺激が出たことを、効果がある証拠として扱う根拠にもなりません。出典:2022年レビュー全文 ↗
厚生労働省の化粧品等の注意通知は、使用を中止すべき症状として、赤み、はれ、かゆみ、刺激、色抜け(白斑等)、黒ずみを挙げています。これは皮膚に使う薬用化粧品・化粧品一般の注意であり、すべてがレチノール特有の症状という意味ではありません。「慣れるために必ず耐える過程」と考えず、こうした異常は使用中止の対象として読む必要があります。出典:厚生労働省の注意通知・1ページ ↗
妊娠中の使用では、飲むレチノイドと、塗るレチノイドの根拠を分ける必要があります。 レビューは、経口レチノイドでは胎児の形態異常を引き起こす性質が確認されている一方、塗布については異なる知見として検討しています。塗布後の観察研究などでリスク増加が確認されなかった報告も紹介していますが、根拠が不十分なため、妊娠中の塗布使用を勧められないとしています。出典:2022年レビュー全文 ↗
リスク増加が確認されなかったことは、安全が証明されたこととは違います。一方で、塗る化粧品のリスクが経口薬と同じだと、この資料から断定することもできません。ここで扱った根拠は、個人に適した濃度・使用頻度や、妊娠中の個別製品の使用可否を決めるものではありません。出典:2022年レビュー全文 ↗
出典と確認日
記述の根拠をたどれるよう、参照先と確認日を掲載しています。
- PMID 36220974 — Use of Retinoids in Topical Antiaging Treatments: A Focused Review of Clinical Evidence for Conventional and Nanoformulations(PubMed BioC、タイトル・抄録のみ) ↗確認日 2026-11-02 · 出典1
確認に使った記述
In this review, the clinical evidence for retinoids in conventional and nanoformulations for topical antiaging treatments was evaluated.
- PMC9618501/PMID 36220974 — Use of Retinoids in Topical Antiaging Treatments: A Focused Review of Clinical Evidence for Conventional and Nanoformulations(2022、NCBI BioC全文、DOI 10.1007/s12325-022-02319-7) ↗確認日 2026-11-02 · 出典2
確認に使った記述
The retinoid family consists of both naturally occurring and synthetic analogues of retinol (vitamin A). Tretinoin (all-trans-retinoic acid) Isotretinoin (13-cis-retinoic acid) Retinal (retinaldehyde) After topical application, retinyl esters are hydrolyzed to retinol; consequently, retinol is converted to biologically active retinoic acid (tretinoin) via retinaldehyde by dehydrogenases in a two-step oxidation process. Some authors reported statistically significant improvements in the assessed parameters compared to vehicle, while others did not confirm positive treatment outcome. Performed clinical studies for the antiaging efficacy of retinol have limitations including small sample size and lack of a vehicle control group which limits the robustness of the results and the validity of the conclusions. However, the stability of retinoids in cosmetics is formulation-dependent and must be evaluated on a case-by-case basis. This article is based on previously conducted studies and does not contain any new studies with human participants or animals performed by any of the authors. Retinoid teratogenicity has been confirmed for orally ingested retinoids, while concerns about retinoid embryopathy after topical application are based on published case reports. However, on the basis of current knowledge and available data, it can be concluded that the use of topical retinoids during pregnancy cannot be advised because of lack of evidence to support this decision.
- 厚生労働省:化粧品における特定成分の特記表示について(2025年3月10日) ↗確認日 2026-11-02 · 出典3
確認に使った記述
特定成分を特記表示する場合、配合目的を必ず併記すること。なお、配合目的は、化粧品の効能効果及び製剤技術に基づく表現とし、客観的に実証されているものであること。 配合成分の全ての成分を同等に表示する限り特記表示に該当しない。
- 厚生労働省:化粧品の効能の範囲の改正に係る取扱いについて(2011年7月21日、参考資料を含む) ↗確認日 2026-11-02 · 出典4
確認に使った記述
日本香粧品学会の「化粧品機能評価法ガイドライン」の「新規効能取得のための抗シワ製品評価ガイドライン」(注)(以下「ガイドライン」という。)に基づく試験又はそれと同等以上の適切な試験を行い、効果を確認すること。 本効果の標榜にあたっては、加齢によるシワ等を含め、全てのシワに効果があるものと誤認される表現をしてはならない。 ただし、医薬部外品等で個別承認を取得した効能については、本ガイドラインに拘わらず、承認された効能の範囲でシワに関する標榜ができる。
- 厚生労働省:化粧品等の使用上の注意について(2014年5月30日)、本文1ページ ↗確認日 2026-11-02 · 出典5
確認に使った記述
製品の使用を中止すべき症状として、 現行の 「赤み、 はれ、かゆみ、刺激」に加え「色抜け(白斑等)や黒ずみ」を追記
- 厚生労働省:医薬品医療機器等法・第2条 ↗確認日 2026-11-02 · 出典6
確認に使った記述
この法律で「医薬部外品」とは、次に掲げる物であつて人体に対する作用が緩和なものをいう。 人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物 この法律で「化粧品」とは、人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容 貌 ぼう を変え、又は皮膚若しくは毛髪を健やかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類似する方法で使用されることが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和なものをいう。
- PMDA:医薬部外品 ↗確認日 2026-11-02 · 出典7
確認に使った記述
医薬部外品の製造販売にあたっては、品目ごとに厚生労働大臣の承認が必要となります。ただし、次の品目については、申請品目が告示の範囲内に該当する場合、承認権限が医薬部外品製造販売業許可の所在地の都道府県知事に委任されています。
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更新と訂正
この公開版: 2026.11.04 / 55e0b59ba933
- 2026.11.04 · 初版 · 55e0b59ba933


